SDMとは、「質の高い医療決断を進めるために、最善のエビデンスと患者の価値観、好みとを統合させるための医療者と患者間の協働のコミュニケーション・プロセス(SpatzES. JAMA, 2016)」「患者と医師が情報、直感だけでなく決定を下すことも共有する協働的な努力・企て(Whitney SN. Ann Intern Med, 2003)」「医療者と患者が協働して医療上の決定を下すプロセス(Legare F. Patient Education and Counseling, 2014)」と、各論文に記載されている通り、医学的な情報や最善のエビデンスと、患者の生活背景や価値観など、医療者と患者が、双方の情報を共有しながら、一緒に意思を決定していくプロセスです。
治療方針決定の代表的なアプローチには、「パターナリズム(paternalistic approach)」「インフォームドアプローチ」「協働アプローチ」があります。
パターナリズムでは過去の経験や最新の知見に基づき医療者が意思を決定。
インフォームドアプローチでは、医療者が患者に選択肢・情報を提示し、患者が自己責任で意思を決定します。そして、協働アプローチは、医療者からの情報とともに、患者からの情報も含め、患者のニーズに基づき話し合いを重ねて協働で意思を決定する方法です。
これらのどのアプローチが適切かは、その時々の状況によって異なります。
治療の有効性が明らかで、合併症のリスクは少なく、放置した場合に生命の危険が高く、迅速な決断が要求される場合には、「パターナリズム」が妥当と考えられます。一方、唯一最善な治療法が明確でなく、治療法に選択肢がある場合には、「インフォームドアプローチ」か「SDM」の手法がとられることになると考えられますが、「インフォームドアプローチ」は、患者や家族にとって、提供された情報を正しく理解し、自ら意思を決定することは容易でないことも少なくありません。
そこで、唯一な治療法が不明で、QOLや予後への影響など、患者負担が大きい治療に関しては、「SDM」が適切であろうと考えられます。
パターナ リズム |
Shared | Informed | ||
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情報交換 | 方向 | 一方向 (医師→患者) |
双方向 (医師↔患者) |
一方向 (医師→患者) |
内容 | 医学情報 | 医学情報 個人・社会情報 (価値観・生活) |
医学情報 | |
情報量 | 必要最小限 | 全関連情報 (医学・個人・社会) |
全関連情報 (医学・個人・社会) |
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検討 | 医師のみ | 医師と患者 (家族他) |
患者 (家族他) |
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最終決定 | 医師 | 医師と患者 | 患者 |
Charles C. Social Science & Medicine 49:651,1999
例えば、事故による心肺停止に対するCPRなど、有効な治療が迅速に開始されることが求められる場面では、「パターナリズム」で治療方針を決定する必要がありますが、乳がんの治療において、乳房切除か温存か、また、放射線治療を併用するか否かなどの選択は、生存率や再発のリスクを検討すると共に、患者の価値観やQOLも含めて医療者と患者が一緒に考える「SDM」のアプローチが必要となります。
腎臓病は、慢性疾患であり、治療は患者の価値観やQOLに影響を与えるため、治療の選択・意思決定にあたっては、「SDM」のアプローチが適切な領域と考えられます。
同じ年齢、性別、源疾患を持つ末期腎不全患者であっても、どの治療がその患者(や家族)にとって最善かは、日々の 生活の様子や生きがい、人生観等によって異なりますし、患者(や家族)のライフステージによっても変化していきます。
医療者と患者が情報を共有し、一緒に治療を考える「SDM」が普及することによって、以下のことが期待されます。
SDMでは、医療提供者と患者が最善のエビデンスに基づき、最善の治療法を一緒に選択していくためは、以下のようなプロセスを取ります。
(USDHHS. Shared Decision Making in Mental health Care 2011 StiggelbutAM. BMJ 2012; 344: e256)
しかしながら、SDMの実践にあたっては、様々な課題も見受けられます。
これらの課題を解決するためには、Decision Aid(冊子やネット上で使える各種意思決定支援ツール)や、ピアサポートの活用等を積極的に検討していく必要があります。
腎臓病SDM推進協会では、腎臓病領域でのSDMの実践・普及を支援するために、セミナーの開催、ツールの提供、海外情報の共有などを行って参ります。